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なぜ、姉妹を愛したのか? 因幡の行平伝説

 この1年間、因幡国国司であった在原行平の伝説を集め、分析してきました。一部は古典に関心を持つ生徒も巻き込んで、伝説の主題や行平との関わりについて考察をしてきました。

 謡曲「松風」と重複する伝説が鳥取にも残っています。因幡に赴任する途上、須磨で出会った松風、村雨の姉妹に恋をした行平は、姉妹を因幡に同行した。4年間、因幡でともに過ごした後、任期を終えた行平は、松風、村雨姉妹を因幡に残し帰京する。その際に、贈った歌が「立ち別れいなばの山の峯に生ふるまつとし聞かば今帰り来む」(『古今和歌集』巻八)である、という内容です。稲葉山という山には「行平塚」があり、ふもとの村には松風、村雨姉妹にゆかりの寺院なども存在しています。

 松風、村雨の伝説は浄瑠璃や歌舞伎によって広まったと考えられていることから、鳥取の松風、村雨伝説もその影響を受けて創作されたものと考えられます。

 私自身は、なぜ、姉妹のどちらかを愛したのではなく、姉妹のどちらも愛したのか、という点に以前から疑問を抱いていました。現在の結論としては、行平の弟の業平のイメージが反映しているためと言えそうです。『伊勢物語』の初段では、思いがけず出会って心を奪われた姉妹に対して、機転のきいた歌を贈った行為を、「昔人はかくいちはやきみやびをなむしける」と語り手は評します。姉妹のどちらも愛する姿は、古代の情熱的な男のイメージであるという説もあるようです。

 故郷の伝説に触れることが、生徒の古典文学への関心を高められることもありますが、因幡国の行平伝説に関しては、文学ではなく歴史への関心が高められたようです。故郷のいにしえの姿に思いをはせるというロマンを楽しむことはできましたが、国語教育の実践としては、失敗です。