鳥取は「因幡の白兎」の伝説の地としてもよく知られています。兎が「ワニ」を騙してたどり着いたという海岸は、白兎海岸と呼ばれ、鳥取県東部の主要な観光地の一つとなっています。
『古事記』では大国主命に助けられた白兎は、大国主命が美女として有名であった因幡の八上姫を妻とすることができるだろうと予言します。この八上姫には大国主命の異母兄弟もこぞって求婚したのですが、果たして八上姫は大国主命の求婚に応じます。『古事記』ではこの後も話が続きますが、それはここでは割愛します。
この伝説をふまえ、鳥取県では平成17年より「日本でいちばんはじめの恋物語」をキャッチフレーズに観光PRを行っており、白兎ゆかりの白兎海岸は多くの観光客で賑わっています。一方で、八上姫を祀る売沼神社(めぬまじんじゃ)は鳥取市の南東部の河原町曳田(ひけた)にありますが、公共交通機関で行くことがきわめて困難だということもあってか、白兎海岸ほどは知られていないというのが率直なところでしょう。
売沼神社のそばには、八上姫公園があります。ここには、一部に創作を加えながら八上姫伝説を紙芝居ふうに紹介した石碑が並べられています。『古事記』を知らなくても、八上姫のことがよく分かるようにつくられています。
また、売沼神社から少し足を伸ばすと、大国主命と八上姫を祀る多加牟久神社がありますし、伝説に由来するとおぼしき地名も見られます。(ただし多加牟久神社は山の中にあり、気軽に行けるところではありません。)
周辺の西郷地区は、中井窯や牛ノ戸焼といった窯陶もよく知られており、新進気鋭の陶芸家たちが集まる地となっています。
また、曳田から山へ向かって進んで行くと谷がちな地形が特徴であり、弘法大師がこの地を気に入り、高野山と同じような修業の地を作るために千の谷にお堂を造ろうとした、という伝説が残るわけも納得がいきます。
売沼神社およびその周辺は、神話や伝説を生んだ自然と静かに対話しながら古代のロマンにひたることができる魅力を秘めています。