歩いて、読む。

日々の雑感。ときどき、ちょっと文学。

『坂の上の雲』に思うこと

 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』はまとまった時間が取りやすい夏休みに読んでみたい小説です。とは言え、とにかく長編で、私は読破するのに何度か挫折しています。この小説からは明治という時代の雰囲気を人間の生を通して感じることができます。明治という時代が、リオタールのいう「大きな物語」が力を持ち、個人の一生を左右した時代であったことが分かります。『坂の上の雲』の秋山好古、真之兄弟をはじめとしたエリートは「大きな物語」に利用されるのではなく、利用して、立身出世を果たしていこうとします。後ろ盾を持たないものが立身出世を果たすための選択肢が限定されていたからでしょう。

 「ポストポストモダン」という言葉が文学の世界でも聞かれるようになりました。個人がそれぞれの物語を紡いでいく現代に、人はどのような物語を作ればよいのか、迷いの中にいることの表れかも知れません。このような時代状況を分析してみせることができる、人文科学の言説に期待します。

 もちろん、多様性を認めない「大きな物語」の復活は望みません。また、他者の幸福を阻害することで成り立つ個の物語も御免です。