歩いて、読む。

日々の雑感。ときどき、ちょっと文学。

寄り添う力 川上弘美『水かまきり』を読んで

 川上弘美さんの作品には、奇をてらったところがなく、また意図や作意を読者に意識させることもありません。それでいて個性を感じます。「好きな作家は?」と問われて、答え私がるのは、川上弘美さんです。(そもそも、好きな作家は誰かと私に問う人もいないのですが…。)川上弘美さんの『水かまきり』は高校の教科書にも採られている短編小説です。読むたびに新たに気づかされることがあります。なんと言っても、語り手である春子という少女の姿に、失意の中にいる人に寄り添うということはどういうことかと考えさせられます。寄り添うということはとても難しい。その難しいことを春子はやってのける。自分自身と春子との違いに意識をむけられます。何か気の利いた言葉をかけようとしたり、必要以上に相手との関係を意識してしまったり、と、結局のところ私自身は「自分」から離れられない。若い頃は、そんな自分が不純なものに思われ、自己嫌悪に陥ったものです。しかし、自分から離れられないのは仕方がないことだ、そのような自分も抱えながら、なおかつ相手に寄り添おうとすることが大切なのではなかろうかと今のところは思っています。御しがたい自分自身を抱えることも、人に寄り添う時には何か力になるような気がしているのです。それは、ただ単に、高潔に生きる努力を私自身が怠っているだけかも知れませんが。