歩いて、読む。

日々の雑感。ときどき、ちょっと文学。

初老に読む『山月記』

 中島敦の『山月記』を久々にじっくりと読みました。若い頃は、主人公の李徴にどっぷりと同化して読んだものです。初老を過ぎた現在、私の関心をひいたのは、李徴の執着と自嘲癖です。李徴は自分の詩を世の中に残すことに執着をみせます。それは、詩人として自分がこの世に存在したという証を残すことに執着しているのですが、人生も終点が意識されるようになってようやく、そんな李徴の気持ちも理解できるようになりました。李徴の自嘲癖については、本文中2ヵ所で言及されています。どちらも、自分の願いを親友にかなえてもらった直後です。李徴は、現実の自分が自らに期待した姿のとおりでなかったとき、自分の能力不足がその原因であると捉えてしまうのでしょう。解説書には、「自尊心の裏返しの心理」等と説明されていることが多いですが、李徴の心理の根底に存在している自己の能力に対する不信感が確認されているととらえたほうが私には理解しやすいです。

 優れた文学作品は、読者の生を振り返らせ、より深く、人生や人間を理解する方向に導いてくれるものです。文学の価値の一面を再認識する今日この頃です。